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複音ハーモニカによるバロック音楽(続) 大田原健太郎



シリーズハーモニカの音楽性について想う
複音ハーモニカによるバロック音楽 (続)
大田原健太郎
 前号では、バロック音楽の紹介と、様々なクラシック音楽の中でバロック音楽を始めた理由の1つ目を述べました。早速、2つ目ですが、、、

2.曲の短さ
歌曲は、人間が歌う曲ですので、古今東西、休みのない長大な曲と言うのはありませんが、器楽曲の場合は、古典派以降オーケストラの規模は肥大化し、曲も長くなる傾向にあります。例えばロマン派のマーラーの交響曲は、概して全て長いですが、第3交響曲は100分以上、第一楽章なんかはそれだけで40分弱という長さです。ハーモニカでは体力持ちません。バロック音楽は大体一つの楽章で数分からどんなに長くても10分程度ですから、ハーモニカでやるには丁度良い長さですね。

3.曲の難易度
 バロック時代のヴァイオリンという楽器はその後改良に改良を重ねて、今私たちが知っている現代のヴァイオリンに至っています。前回はその音色について触れましたが、機動性・運動性も改良され、音域も広がり、演奏技巧も発展しました。その結果、とても難しい曲も増えました。従って、そういう曲をハーモニカで演奏するためには、大幅に簡略化するなど編曲の工夫もなるでしょう。しかし、それは、作曲家が意図したことから離れるでしょう。例えばベートーヴェンが作曲した原曲の素晴らしさを、私のような素人の編曲が原曲を超えることが出来るか?無論無理な気がします。ならばオリジナル通りで演奏出来る曲を選ぶべきでないか?とすると、未だ超難曲が生まれていないバロック時代の曲が適していると考えました。ちょっと後ろ向きな理由ではありますが、、、でも、、、それでもハーモニカでバロック音楽でも原曲通りにやるには、難しいですよ、なかなか。
 又、原曲通りを基本とするので、コードハーモニカに頼らないようにしています。ハーモニカのアンサンブルというと、ハーモニカ1~2本、コード、バス、という構成が多分一番ポピュラーでしょうか。特に、このコードというハーモニカは本当に便利な楽器だと思います。一か所で和音が出るのですから。私も“楽団ふたり”というデュオを複音とバス付きコードのふたりでやっております。
しかし一方で、ある程度音楽の知識を得るとこのコードハーモニカでは物足りないと感じる方も多いのでは無いでしょうか?即ち、和音の転回が扱えません(わからない方は、楽典を勉強ください)。他の和音が扱える楽器であるギターやピアノから比べると圧倒的に表現力が不足します。
実は、バロック音楽でも和音を担当する楽器が存在します。チェンバロ(これはドイツ語、英語はハープシコード、フランス語ではクラブサン)、リュート(ギターの様な構造の楽器)、がポピュラーですが、これらは弦を弾いて音を出しますので、コードハーモニカではそもそも同じ雰囲気にはなりません。

4.人数構成
 複音ハーモニカはそもそも一人でも楽しめる楽器ですが、合奏で良くやられているのは、デュエット(2人)、トリオ(3人)、カルテット(4人)、が多いですね、それ以上だと、いきなりビッグバンド(数十人以上)となりますか。クラシック音楽も2-4人までの曲とオーケストラの曲が圧倒的に多いとはいえ、室内合奏団や、室内オーケストラといわれる、5人から20-20人くらいの編成もかなりあります。何故、ハーモニカではそのような人数構成は少ないのだろうか?自分なりに考えた結論は、大人数だと少し位間違ってもバレないという安心感、少人数だとすぐバレる。だけど、カルテットなら、例えば、バスコードと上手な人間が二人いれば、実現可能だから、活動団体も多い。ところが、
私の主宰するバロック・ハーモニカ・ソロイスツのように複音だけで上手な人間を10人くらい、1パートで2-3人を揃えるのは、かなり難しいです。普段十分なソロ演奏できる人間をそれだけ揃えるのは勿論、本番でもし一人抜けた場合、どうやって穴埋めするか、穴埋め出来ない場合は、どうやってそれなりの演奏にするか。常に考えながら、日ごろの練習も必要となります。複音でそういう珍しい人数構成の合奏に挑戦したかったというわがままな理由が一番の本音かも?
 そしてバロック音楽では、このような人数構成で演奏出来る曲が多いと考えたのです。先に述べましたが、古典派以降特にロマン派では扱う楽器の種類も増え、オーケストラの規模も肥大化しましたので、少人数で演奏するには大幅に編曲が必要です。

 以上が、複音ハーモニカでバロック音楽を始めたきっかけです。今まで、パッヘルベルのカノン、バッハのG線上のアリア、ヘンデルの王宮の花火の音楽、ヴィヴァルディの「四季」から「春」、などに挑戦してきました。これらを通して、注意点や課題も見えてきましたので、今後皆さんがバロック音楽をやる際の参考としてそれらのいくつかを紹介したいと思います。

通奏低音をどう対応するか
通奏低音とは、バロックの伴奏の形態で、間断のない低音部の旋律とそれに付随する和音のことです。バロック音楽を通奏低音音楽と呼ぶ人がいるほどに、重要な概念です。最大の課題は低音を担当するバスです。“通奏”というように、休まなく音が継続します。普通のハーモニカ合奏では、バスはボン、ボン、と短く音を出して後は休みですが、バロックではずっと吹いていなくてはなりません。原曲通りでやろうと思うとそれなりに工夫が必要で、私たちは特に難しい曲の場合は、例えば複数の楽器を用いて一つのバス旋律を演奏するなど研究しながらの挑戦をしています。
又、前回述べたように、バロック音楽ではポリフォニーは重要であり、バスに重要な旋律を担当させることもしばしばです。普通の合奏のように根音と五度だけ吹いていればいいという訳にはいかず、間断なくずっと旋律を吹くのですから、バスには相当の技量と何よりも体力が求められます。

記譜上の問題点
 バロック時代では既に五線譜が普通に使用されていましたが、現在の記譜方に比べると、まだまだ未熟な点が見受けられます。恐らく最大の課題の一つは、付点記号でしょうか。例として、付点四分音符を取り上げましょう。私たちが教えられているところでは、付点4分音符=4分音符+8部音符、ですね。しかしながら、バロック音楽が見直され、研究されるにようになり、バロック時代では、そこまできっちりした長さではではなく、付点4分音符とは4分音符より長いことを記すことであることがわかってきました。どの程度余分に延ばすのかは演奏する側の熟孝が必要です。特にバロック時代では複付点音符という記譜がありませんでした。例えば、複付点4分音符=4分音符+8分音符+16分音符ですが、バロック時代では付点4分音符と書いてあることが実は複付点4分音符ということはしばしばあります。音楽の流れを考えて判断しなくてはいけません。
 次の課題は強弱記号でしょう。バロック時代では作曲家=演奏家ということが基本であったので、楽譜に事細かくあれやあれやと指定しなくても良かったのです。自分の書いた音楽ですから、細かい点を書く必要もなかったわけです。ですので、楽譜に強弱記号がかいていないことが普通ですし、もし書いてあったとしても、それはずっと後の時代に出版社が勝手に挿入したことがしばしばです。書いてあることを鵜呑みにしてはいけません。
 以上のように、バロック音楽を演奏するためにはいろいろ研究が必要ですが、それが却って楽しみです。皆さんも挑戦してみませんか?